大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和48年(ワ)8589号 判決 1975年3月24日

主文

一  被告京王交通株式会社は

(一)  原告甲田健二に対し金六一万八、六〇〇円および内金四七万八、六〇〇円に対する昭和四八年一一月一日から、内金一四万円に対する本判決確定の日の翌日から、いずれも支払ずみまで年五分の割合による金員を

(二)  原告甲田三枝子に対し金四六万六、一〇〇円およびこれに対する昭和四八年一一月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を

(三)  原告瑞穂印刷産業株式会社に対し金二四万円および内金二一万円に対する昭和四八年一一月一日から、内金三万円に対する本判決確定の日の翌日から、いずれも支払ずみまで年五分の割合による金員を

それぞれ支払え。

二  被告加藤優は

(一)  原告甲田健二に対し金六一万八、六〇〇円および内金四七万八、六〇〇円に対する昭和四八年一二月四日から、内金一四万円に対する本判決確定の日の翌日から、いずれも支払ずみまで年五分の割合による金員を

(二)  原告甲田三枝子に対し金四六万六、一〇〇円およびこれに対する昭和四八年一二月四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を

(三)  原告瑞穂印刷産業株式会社に対し金二四万円および内金二一万円に対する昭和四八年一二月四日から、内金三万円に対する本判決確定の日の翌日から、いずれも支払ずみまで年五分の割合による金員を

それぞれ支払え。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告ら、その余を被告らの各連帯負担とする。

五  この判決の第一および第二項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の申立

一  請求の趣旨

(一)  被告らは各自、原告甲田健二に対し金一七〇万三、二〇〇円、同甲田三枝子に対し金一六四万三、〇〇〇円、同瑞穂印刷産業株式会社に対し金三〇万〇、九四〇円および右各金員に対する訴状送達の日の翌日から支払ずみまで、年五分の割合による金員を支払え。

(二)  訴訟費用は被告らの負担とする。

(三)  仮執行の宣言を求める。

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

(一)  原告らの請求をいずれも棄却する。

(二)  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

(一)  事故の発生

1 日時 昭和四八年三月一二日午後一一時四〇分頃

2 場所 東京都府中市白糸台三丁目四〇番地先交差点

3 加害車 普通乗用車(練馬五五あ五四七〇号)

運転者 被告加藤優

4 被害車 普通乗用車(品川五一そ六九八五号)

運転者 原告甲田健二(以下「原告健二」という)

同乗者 原告甲田三枝子(以下「原告三枝子」という)

5 態様 側面衝突

(二)  被告らの責任

1 被告加藤には、信号無視、速度違反、徐行義務違反、ハンドル・ブレーキ操作不適当、脇見運転の過失がある。

2 被告京王交通株式会社(以下「被告会社」という)は加害車を所有し自己のため運行の用に供していたものであり、また被告加藤の使用者であるところ、同被告が被告会社の業務執行中に前記過失により本件事故を惹起したものであるから、人損については自動車損害賠償保障法三条により、物損については民法七一五条一項により損害賠償の義務がある。

(三)  原告らの損害

1 原告健二の損害 金一七〇万三、二〇〇円

(1) 原告健二の傷害

原告健二は、右事故により頸椎捻挫、左肩部帯挫傷、左前胸部挫傷、口唇部挫創、頭部顔面打撲、右肩打撲の傷害を負い、昭和四八年三月一三日から同年七月一二日まで治療したが、自動車損害賠償保障法施行令別表一二級一二号および一四級一〇号に該当する後遺症がある。

(2) 治療費 金七万三、二〇〇円

(3) 慰藉料 金一二八万円

(4) 逸失利益 金一〇万円

(5) 弁護士費用 金二五万円

2 原告三枝子の損害 金一六四万三、〇七〇円

(1) 原告三枝子の傷害

原告三枝子は、右事故により頭部打撲、顎挫創、顔面打撲、頸椎捻挫、左肩胛部挫傷、右膝打撲の傷害を負い、昭和四八年三月一三日から同年七月一四日まで治療をしたが、自動車損害賠償保障法施行令別表一二級一二号および一四号に該当する後遺症がある。

(2) 治療費 金八万三、〇七〇円

(3) 慰藉料 金一五三万円

(4) 逸失利益 金三万円

3 原告瑞穂印刷産業株式会社(以下「原告会社」という)の損害 金三〇万〇、九四〇円

(1) 本件事故により原告会社所有の被害車が破損し、使用不能となつた。

(2) 車両損害 金二三万〇、九四〇円

(3) 弁護士費用 金七万円

(四)  結論

よつて、被告ら各自に対し、原告健二は金一七〇万三、二〇〇円、同三枝子は金一六四万三、〇〇〇円(百円未満切捨て)、原告会社は金三〇万〇、九四〇円および右各金員に対する訴状送達の日の翌日から支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する原告らの答弁

(一)  請求原因(一)の事実を認める。

(二)  同(二)のうち、被告加藤の過失を否認し、その余の事実を認める。

(三)  同(三)のうち、原告両名が負傷したことおよび原告会社所有の被害車が破損したことを認め、その余の事実は不知。

三  被告らの主張

(一)  過失相殺

原告健二には、本件事故現場の交差点を右折するに際して、直進する加害車の進行を妨げてはならない注意義務があるのに、これに違反して右折した過失がある。

(二)  損害の填補

自賠責保険から、原告健二は、金一九万四、六〇〇円、同三枝子は金一四万六、九七〇円の損害の填補を受けた。

四  被告らの主張に対する原告らの答弁

(一)  被告ら主張(一)の主張を争う。

(二)  同(二)の事実を認める。

第三証拠関係〔略〕

理由

一  事故の発生

請求原因(一)の事実は当事者間に争いがない。

二  被告らの責任

(一)  被告会社が、加害車を所有し自己のため運行の用に供していたことおよび被告加藤の使用者であり、同被告が被告会社の業務執行中に本件事故を惹起したことは、当事者間に争いがない。

(二)  そこで、被告加藤の過失について考える。

成立に争いのない乙第九号証、同第一一号証の一ないし八、同第一二号証の一ないし三(一部)、同第一三、第一四号証、同第一六号証(一部)、同第一七、第二〇号証、同第二一号証(一部)、同第二二、第二八、第二九号証、同第三〇号証の一ないし三、同第三二、第三七号証、同第三九号証の一、二、原告健二、被告加藤(一部)各本人尋問の結果を総合すると、次の事実が認められる。

本件事故現場付近の道路状況は、別紙現場見取図記載のとおりであり、路面は、平担で、コンクリート舗装されているが、本件事故当時は、前に降つた雨のため濡れていた。また、本件道路は、公安委員会により、最高速度が時速五〇粁に制限されていた。

原告健二は、被害車を運転して、調布方面から本件交差点を右折して小金井方面に向う途中、右折の合図をして本件交差点にさしかかつた際、反対側の車線を、三台位の車両が高速度で追いつ追われつ一団となつて進行して来たので、別紙現場見取図<ア>付近に一時停止して、これをやり過した。その後同原告は、発進して、同図<イ>付近で対面する信号機の表示が青から黄に変るのを認めるとともに、同図<モ>付近にタクシーが一台停止しており、その後方の内側車線の<1>付近を進行して来る加害車を認めたが、加害車との間にはまだかなりの距離があり、信号も黄に変つたので、十分先に通過できるであろうし、また加害車が交差点の手前で停止するであろうとの判断のもとに、何らの危険も感じないまま、その後は加害車に注意することもなく、時速一〇粁位で右折を開始したところ、同図<メ>で後記のとおり加害車と衝突した。

一方、被告加藤は、加害車を運転し、立川方面から調布方面に向けて、内側車線を時速八〇粁位で進行中、別紙現場見取図<1>の手前付近で、右折しようとしている被害車を<ア>ないし<イ>付近に認め、かつ、対面信号が青を表示しているのを認めたが、被害車が直進車である加害車の通過を待つてくれるものと考え、かつ、信号が変わらないうちに交差点を通過してしまいたいとの考えから、その後対面信号に注意することなく、そのままの速度で進行を続けたところ、交差点近くに来た際に、右折して来る被害車を認め、急ブレーキをかけたが、未だブレーキが効き始めないうちに、<×>地点で被害車の左後側面に加害車の前面を衝突させた。

右衝突時においても、調布から立川に至る道路に面する信号機は黄を表示していた。

なお、本件道路は、本件事故時の如き深夜には交通量が少いため、制限速度を遵守する車両は少く、時速七〇粁位で走行する車両も少くない状況である。

以上の事実が認められ、右認定に反する乙第一二号証の一ないし三、同第一六、第二一号証および被告加藤本人尋問の結果の各一部はたやすく措信しがたく、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

右認定事実によれば、被告加藤が、対面信号が青を表示していることを確認した直後頃には、信号が黄に変つたものと推定されるところ、同被告が制限速度を遵守するか、これを多少超過した程度の速度で加害車を運転し、かつ、対面信号に注意して、信号が黄に変つた時点でブレーキをかけていれば、交差点の手前か、少くとも別紙現場見取図<×>地点に至らないうちに停止することができ、本件衝突事故を回避しえたことは容易に推測しうるところである。そうとすれば、右の注意を尽さず、制限速度を時速三〇粁位超過する高速度で前記のとおり進行した被告加藤に過失があることは明白である。

被告らは、原告健二には、本件交差点を右折する際に、直進車である加害車の進行を妨げた過失がある旨主張するので考える。前記事実関係から判断すると、加害車が制限速度を遵守していれば勿論のこと、他の多くの車両と同様時速七〇粁位で走行していたとしても、被害車が衝突する前に別紙現場見取図<×>の地点を通過し終えた可能性がある。道路交通法の直進車優先の規定は、右折車が右折することにより、直進車の適法な直進状態をそのまま継続しえなくすること、換言すれば、右折車が右折することにより制限速度を遵守して走行して来た直進車が制動ないし転把しなければ、右折車と衝突するか、これに近い危険な事態の招来を避けるためのものであると解されるところ、本件においては、加害車が制限速度を遵守していたとすれば、被害車の右折によつて右のような事態を招来するものとは認められない。従つて、本件においては、原告健二につき、被告ら主張の過失は認められない。また、前記事実からして、原告健二が加害車の速度を適確に把握していなかつたものと推測されるが、対向車の速度を把握することはかなり困難であるうえ、本件事故が深夜のことであることを考えると、それが一層困難であることは十分推測されるところであり、そのうえ、制限速度をはるかに超過し、通常の車両の流れの速度をも超過して加害車が進行して来ることまで予測して右折すべきことを同原告に期待することは、難きを強いるものであるといえる。これに加えて、本件では、加害車が交差前のかなり手前にいる間に、その対面信号が青から黄に変つているのであるから、原告健二が、加害車が到着するより早く右折し終えるものと判断し、かつ、加害車が交差点の手前で停止するであろうと期待したことをもつて、同原告を責めることはできないものというべきである。従つて、同原告が、別紙現場見取図<イ>付近から右折を開始したことは勿論、その後加害車に注意を払つていなかつたことをも、過失相殺の対象とすべき程の落度があつたものということはできないものというべきである。

三  原告らの損害

(一)  原告健二の損害 金六七万三、二〇〇円

1  原告健二の傷害および後遺症

成立に争いのない甲第二号証、同第三号証の一、二、同第四号証および原告健二本人尋問の結果によれば、同原告が本件事故により顔面打撲、左肩打撲、左肩胛部挫傷、口唇挫創、左前胸部挫傷、頸椎捻挫の傷害を負い、その治療のため、昭和四八年三月一三日に一日入院したのち、翌一四日から同年七月一二日までの間に一六回通院したこと、その後も暫くの間は下口唇部に長さ一・五糎の外傷痕を残していたが、昭和四九年一二月九日現在ではほとんど目立たなくなつたこと、しかし現在に至るもなお耳鳴り、肩こり、頭痛などの症状があること、が認められ、右認定に反する証拠はない。

2  治療費 金七万三、二〇〇円

前顕甲第二号証および同第三号証の二により認める。

3  逸失利益 金一〇万円

原本の存在について争いがなく、原告健二本人尋問の結果により真正に成立したと認める甲第九号証の一および同本人尋問の結果によれば、同原告が本件当時原告会社に勤務し、デザイナーとして働いていたこと、一ケ月間に金一〇万円の賃金を得ていたこと、本件事故による負傷のため、昭和四八年三月一四日から同年四月一五日まで欠勤を余儀なくされ、そのため金一〇万円の賃金を得られなかつたこと、が認められ、右認定に反する証拠はない。

4  慰謝料 金五〇万円

前認定の傷害の程度および後遺症の程度等に鑑み、原告健二に対する慰謝料としては、金五〇万円が相当である。

(二)  原告三枝子の損害 金六一万三、〇七〇円

1  原告三枝子の傷害および後遺症

前顕乙第二二号証成立に争いのない甲第五号証、同第六号証の一、二、同第七号証、原告健二本人尋問の結果および弁論の全趣旨によれば、原告三枝子が本件事故により頭部打撲、右膝打撲、下顎部打撲、顔面打撲、左肩胛部挫傷、頸椎捻挫の傷害を負い、その治療のため、昭和四八年三月一三日に一日入院し、翌一四日から同年七月一四日までの間に一八回通院したこと、その後の下顎部に長さ各一糎の外傷痕を二条残していたが、内一条はいつの間にか目立たなくなつたが、他の一条は今でもはつきりと残つていること、その他原告健二とほゞ同様の症状を残していること、が認められ、右認定に反する証拠はない。

2  治療費 金八万三、〇七〇円

前顕甲第五号証、同第六号証の二によつて認める。

3  逸失利益 金三万円

原告健二本人尋問の結果により真正に成立したと認める甲第九号証の二および同本人尋問の結果によれば、原告三枝子が本件当時原告会社にトレース工として勤務し、一ケ月間に金三万円の賃金を得ていたが、本件事故による負傷のため昭和四八年三月一四日から同年四月一五日まで欠勤を余儀なくされ、その間の賃金三万円を得られなかつたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

4  慰謝料 金五〇万円

前認定の傷害の程度、後遺症の程度等に鑑み、原告三枝子に対する慰謝料としては、金五〇万円が相当である。

(三)  原告会社の損害 金二一万円

1  前顕乙第二一号証、被害車の写真であることに争いのない甲第一〇号証の一ないし七、原告健二本人尋問の結果により真正に成立したと認める同第八号証、同第一一号証の一ないし三および同本人尋問の結果によれば、原告会社が昭和四四年一〇月二七日に金六四万一、五〇〇円の被害車を新車で購入して自家用車として使用していたこと、本件事故により被害車が大破し、その修理には金三一万五、〇四〇円を要するものと見積られたこと、しかし被害車を修理しても外形的には修復できても、車台にくるいが生じているので乗ることはできないと業者に言われたため、原告会社が被害車を廃車処分にしたこと、が認められ、右認定に反する証拠はない。

2  右事実によれば、本件事故により被害車が全損したものであると認められるところ、右認定事実に鑑み、本件事故直前の被害車の価格を、定額減価償却法を参考として金二一万円と推定する。

四  損害の填補

自賠責保険から、原告健二に対し金一九万四、六〇〇円、同三枝子に対し金一四万六、九七〇円支払われたことは当事者間に争いがない。

五  弁護士費用

原告らが本訴追行を弁護士に委任したことは当裁判所に顕著な事実であり、弁論の全趣旨によれば、そのための費用として、原告健二が妻である同三枝子の分をも併わせて金二五万円、原告会社が金七万円をそれぞれ支払う旨約したことが認められ、右認定に反する証拠はない。しかし、本件事案の内容、訴訟経過、認容額等に鑑み、本件事故と相当因果関係を有するものとして被告らに請求しうべき分としては、原告健二の分として金一四万円、原告会社の分として金三万円が相当である。

六  結論

以上述べたところによれば、原告らの本訴請求は、

(一)  被告会社に対し

1  原告健二が金六一万八、六〇〇円およびこれから弁護士費用分金一四万円を控除した残金四七万八、六〇〇円に対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和四八年一一月一日から、右金一四万円に対する本判決確定の日の翌日からいずれも支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による金員

2  同三枝子が金四六万六、一〇〇円およびこれに対する右昭和四八年一一月一日から支払ずみまで右年五分の割合による金員

3  原告会社が金二四万円およびこれから弁護士費用分金三万円を控除した残金二一万円に対する右昭和四八年一一月一日から、右金三万円に対する本判決確定の日の翌日から、いずれも支払ずみまで右年五分の割合による金員

(二)  被告加藤に対し

1  原告健二が金六一万八、六〇〇円および内金四七万八、六〇〇円に対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和四八年一二月四日から、内金一四万円に対する本判決確定の日の翌日から、いずれも支払ずみまで年五分の割合による金員

2  同三枝子が金四六万六、一〇〇円およびこれに対する昭和四八年一二月四日から支払ずみまで年五分の割合による金員

3  原告会社が金二四万円および内金二一万円に対する昭和四八年一二月四日から、内金三万円に対する本判決確定の日の翌日から、いずれも支払ずみまで年五分の割合による金員の各支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余の請求はいずれも失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 瀬戸正義)

現場見取図

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例